昨年に引き続き今年もビショップツアー。やはりお目当てはMandala。人生で登っておかなければならないと思っている課題の一つだ。
今回は一人旅ではなく、既に10日前に現地入りしているビショップの鬼=キシタ君と合流する計画。彼の一番の狙いも同じくMandalaで、世界一有名な課題に取り憑かれた二人のツアーは果たしてどんな結末に…。
2月19日 (晴) Japan→USA
今回は羽田発。格安チケットのせいか深夜0:30発の便だが、仕事後に出発できるので逆に都合がいい。キシタ君にロスまで迎えに来てもらい(キシタ君ありがとう!)、深夜にビショップ到着。
2月20日 (晴)
今日は初日なのでまずは慣らしで…と思ったが、今回のパートナーはハイボールの鬼でもあるので、初日からハイボールをやりまくることになった。
メインエリアから右奥に回り込んだところにあるPollen Grainsエリアに行き、まずはLidija Boulderでアップ。見た目に面白そうなLidija's Mouth V3に取り付くが、今までやったことのないようなサバ折出前ムーブで腰をやられかける。アップでやる課題じゃなかった。
指皮をやられそうなので数回で諦めかけたが、キシタ君がこれ見よがしにスニーカーでお手本ムーブを見せてくれたので、とりあえず完登しておいた(笑)
スラブを上がって高さ10mほどある岩の頂点に立つと、周囲には360度広がる荒涼とした景色。所々にスケールの大きなボルダーが散在し、ビショップに戻ってきたことを実感する。
ここでのボルダリングの感覚は、特に高度感において日本とはまるで違う。とにかく岩がでかい。ハイボールは当たり前。大抵は登った後にその分のクライムダウンをしなければならず、しょっぱなの10mのクライムダウンは、易しいとはいえ刺激的だった。
隣のSuspended in Silence V5は、Bishopのトポでは数少ない4つ星課題の一つ。こちらは6mのフェースを登ってから上部のスラブに入るため、さらに高度感がある。
時差ボケで頭がフワフワしてるが、これはやっておかなねばとトライ。一手目のランジを際どく止めた後、フェースをサクサク登って完登。岩の真ん中をダイレクトに登る素晴らしい課題だった。
アップを終了し、キシタ君のお目当てのMesothelioma sit V8へ。これも相当高いうえに、リップ付近が核心という恐ろしい課題。下から上部のホールドが全く分からないので、グレード以上の難しさがある。
キシタ君はリップからマットのない場所に2回もフォールして無事だったらしく、かなりの強運の持ち主。フォールの映像を見せてもらったが、あらぬ方向に吹っ飛んでいて目が点になった。なかなかこんなフォールシーンはお目にかかれない。
しかし、これだけかっこいい課題だと危険をかえりみずにやってしまう気持ちはよく分かる。
ただこの課題にはもう一つ問題点があった。まともな下降路がないのだ。一箇所だけクライムダウンできそうなラインが見えるが、正味8mの垂壁でそれほど簡単そうではない。
まあ何とかなるだろうというノリで、懲りない男はためらいもなく課題に取り付いた。そして2トライ目で気合の完登!! リップから先の登りは「えっ、行っちゃうの!?」的な感じで、見てるほうもかなり怖かった。砂利がたくさん降ってきたし…。
懸念の下降は思ったより易しかったようで、問題なくクライムダウン(それでも高さ的には結構怖い)。
彼の熱い登りに刺激を受け、自分も何とか2トライで完登。ただ、リップのカチを取った時には既に腕が張っていて焦った。その先で持ったホールドはボロボロ崩れるし…。
何はともあれ満足度の高い一本だった。恐怖心を克服して登るハイボールには、やはりグレードでは計れない面白さがある。
次は今回登りたいと思っていたNinth V7に行くことにした。Ninthは山頂部で存在感を放つ美しいカンテ課題で、アプローチが少々面倒でも行く価値がある。
これもハイボールだが、 ランディングが悪い分さらにメンタル要素が高い。
左面のスラブから、露出感のある前傾カンテに移って登るラインだが、遠いムーブが連続するうえに、カンテに出てから落ちると真下の三角の岩に激突するという恐ろしい課題。
途中で降りたくてもクライムダウンできないので、右のフラット面を狙って飛び降りるしかなく、その際もうまく体を振らないと岩に当たってしまう。
Mesotheliomaよりもさらに危険な課題だが、魅惑的な美しいカンテに抗うことはできず、トライを始める。二人で徐々にムーブを解明していくが、とにかく途中で飛び降りるのが怖い。
上部の核心まで進んだところで、これ以上ホールドの分からない状態で突っ込むのは厳しくなる。日暮れも迫っていたので、やむを得ずロープで探ることにした。
できればグランドアップで登りたかったが、またここまで来る気もせず、何としても今日中に登ってしまいたかった。
ホールドを確認してからトライ再開。キシタ君が先に完登を決め、続いて自分も完登。ロープで探るという妥協点はあったが、この美しいハイボールを登れて純粋に嬉しかった。
山頂で記念撮影して薄暗闇の中下山。
帰りがけのVONSで、日本人の若い三人衆(笠原くん=DK、N島兄、福ちゃん)と遭遇。そのあとモーテルで談話を楽しんだ。
2月21日 (曇り時々晴)
午前中からButtermilkのメインエリアへ。お目当てはMandala V12。スラブのHunk V2でアップしてから、暑くなる前にMandalaのトライを始める。キシタ君はすでに二手目までムーブが進んでいるようで、今日は完登狙い。
私はまずは体慣らしから。時差ボケがまだ解消しておらず、いまいち体に力が入らない。昨日よりもさらにフワフワした感覚。
キシタ君は初回から集中したトライで、二手目までスムーズに行くが、三手目のランジでフォール。
彼のムーブは、通常の一手目の激カチよりさらに上のホールド(通常の2手目)を取りに行く独自のムーブ。リーチのある人には良さそうだが(N島兄は2日前にそれで完登)、私には全くできる気がしなかった。
一手目のムーブをいろいろ試し、結局一番ノーマルな右手で激カチを取るムーブに決める。というかそれしか可能性を感じられない。(ちなみに現在このカチホールドは少し欠けていて、持てるポイントがだいぶ小さくなっている。)
まだ一手目を止められる気配がないため、まずは苦手な左手の逆手アンダー筋を鍛えるところから始めることにする。
キシタ君も2回目以降は一手目が止まらなくなり、急激に気温が上昇してきたので、各自3回ほど練習して終了。夕方涼しくなるまで待つことにした。
しばらく昼寝した後、私は昨年の宿題Haroun and the Sea of Stories V11のムーブ確認へ。今回のお目当てはMandalaなので、あくまで皮を減らさない程度で触っておいた。
キシタ君は完全にMandala一筋モードなので、夕方までひたすら昼寝して体力温存。
16時頃にMandalaに戻って再トライするが、やはり一手目が止められない。ただ、徐々にムーブに慣れてきて、カチの感触を掴めるようになってきた。キシタ君も一手目を止められず本日終了。
2月22日 (晴)
今日はキシタ君はレスト。なので一人で早起きして9時半頃にButtermilkへ。
Mandalaに直行すると、すでに三人衆が来ていてDKがトライ始めていた。暑くなるまでの1時間ほどで3回トライするが、やはり一手目ができない。ただ昨日よりだいぶ感覚はいい。少しムーブに慣れてきたようだ。
止められそうな気がしてきたので、今日はMandalaに費やすことにして、昼間はレスト。Wilsonsでショッピングを楽しんだあと、16時に戻って打ち込みを再開する。
そして何度目かのトライで、ついに一手目を捉えることができた。猛烈に痛いホールドに我慢しながら足を上げて二手目に手を出すが、タッチするのが精一杯。二手目取りも悪い。
ただ一手目を止められたことで、完登の可能性が一気に広がった。他にやりたい課題もたくさんあるが、明日からの全てをMandalaに捧げてもいい気分になった。
2月23日 (晴)
7時起きで早朝Buttermilkへ。ハイスラブでアップした後、Mandalaをやりに行く。三人衆も合流して、みんなでMandalaにトライ。
今日は疲れが残っていて、だいぶ体が重い。昨日は10トライ位しかしていなかったのだが…。Mandalaの負荷はそれだけ高いということだろう。数回トライするが、結局一手目を止められないうちに暑くなってしまった。
キシタ君は昨日のレスト効果で調子が良さそう。2回目で一手目を止め、三手目のカチフレークを止められそうなところまで進む。だいぶ完登が見えてきたようだ。
そして4回目のトライでついに三手目をゲット! そのまま完登かと思われたが、四手目を止めた後に力尽きてしまった。非常に惜しいトライだった。
ただそのあと衝撃の事実が発覚。なんとこのトライで指をパキッてしまったらしい。かなり痛そうで、もうMandalaにトライするのは絶望的。
どうやら一手目を止めて足を上げているときにやってしまったらしく、そのまま気合でムーブを繋げたようだ。最初からパキッても続ける覚悟を決めていたという話を聞いて、この課題に対する並々ならぬ気迫を感じた。さすがMandalaの鬼。しかし、完登間近だっただけに本当に残念。
あとでムービーで確認してみたが、パキリ音はしっかりと入っていた。
意気消沈したが、Xavier's Roof V11にみんなで行くことにする。
このエリアは、メインエリアの駐車場から車で戻って最初に右に分かれる道に入り、途中に車を置いて15分ほど歩いた所にある。
ケイブ状でかなりかっこいい。ただ実際にやってみるとケイブ部分は単なるアプローチで、核心はリップ上部の最終ガバを取りに行く一手のみ。
ただ、このリーチムーブには泣かされた。左手プッシュのまま、思い切り右手を出してみるが届かない。物理的には不可能ではないが、リーチがないほど難しくなる課題だ。
DKとN島兄はあっさり2撃で抜けるが、私と福ちゃんはどハマリ。昼間は暑過ぎてどんどん指皮が持っていかれる。指皮を温存するために何度も諦めようとするが、見てると何となくやりたくなって悪循環のトライが続く。
結局夕方までそこにいることになり、コンディションが良くなってきたのが、さらに無駄なトライに拍車をかけた。
右足ヒールを上げて乗り込むムーブを新たに発見し、行けそうだったので最後のトライに賭ける。
集中してスタートを離陸し、リップまでのアプローチをこなす。そしてこのあと悪夢のような出来事が起きた。
左手リップのカチガバから右サイドを取って、狭い所に右足ヒールを上げて乗り込んでいく。
もう少しで体が安定し、スタティックで次の左手を出せるというところで、突然右膝に「バキッ!!」という鈍い音が…。明らかにただ事ではないことを感じ、力を抜いてすぐにフォール。
痛みはなかったが、絶対にやってしまったという感覚だけはあった。音がなったのは右膝の外側部分。膝周辺をくまなく触ってみるが、アドレナリンで抑えられているせいか明確に痛めた場所は分からない。
かなりの音だったので、ただで済んでいる訳がないと慎重に立ち上がるが、やはり膝裏の筋に違和感を感じた。
とりあえずびっこを引きながら歩くことができたので、荷物を持ってもらい、車まで自力で下山。
まさかこんなところでパキッてしまうとは…。本当に予想外。よくよく考えれば、この課題は右足ばかりを酷使する内容だった。疲労が蓄積していた上に、体のキレもいまいちだったので、足に負担をかけ過ぎていたのだろう。
あとから考えれば、何となく怪我の原因が見えてくるが、登っているときにはなかなか気付けないものだ。いずれにしても深追いは怪我の元。よくよく分かっていることなのに、またやってしまうとは情けない。
今ツアーはもうこれで終了かもしれない。まだ4日しか経っていないのに…。
それにしてもまさか一日に二回もパキリ音を聞くことになるとは。15年間で一度も聞いたことがなかっただけに、この二回は単なる偶然には思えなかった。
呪われた二人組。同い年のキシタ君とは、こんなところまで相性がいいようだ(笑)
とにかくお互いの早期回復を祈って、VONSに肉を買い漁りにいく。
モーテルのベッドで横になっていろいろ足の状態を探ってみると、痛めたのはおそらく右膝の外側側副靱帯。腫れはひどくなく、膝関節の可動域も問題ないので、それほど酷くはないかもしれない。でも、あの音を聞いてしまうと、単なる損傷で済んでいるとはとても思えない。
とりあえずしばらくは様子を見るしかなさそうだ。
2月24日 (晴)
起きてみると、膝は固まっていて動かすと痛い。一回立って足を伸ばしてしまえば関節で支えられるので、ぎこちないながらもかろうじて歩くことはできる。ただ座ったりするときに再び膝を曲げるのがつらい。
昼頃にコインランドリーに洗濯に行く。コインランドリーはメイン通りの一本西側の裏路地にある。(Thunderbirdモーテルの近く。)
待ち時間の間、Carl's Jr.で昼食。何気に今回初のファーストフードだったが、とにかくハンバーガーの重量に驚いた。日本の3倍はある。
暇なのでそのあとは、メイン通りをロス側に戻った2つ先の町LonepineにあるアウトドアショップElevationに行くことにした。ビショップから55マイルほど離れていて、約一時間のドライブ。
ElevationはWilsonsに比べるとだいぶ小さなショップだが、Wilsonsにはないものが売っていたりして、それなりに楽しめた。Wilsonsのようなセール品はないが、3品以上買うと10%オフ、5品以上だと15%オフにしてくれるという話なので、二人で合わせて買い物をした。
戻ってVonsで晩飯の買出し後、三人衆と共にモーテルで会食。N島兄の将来のために、キシタ先生の特別レッスンが開講されたのには笑った。
半日以上足を下にしていたせいか、膝周りに腫れが広がり、ますます曲げにくくなってしまった。見た目には分からないが、やはり内出血しているようだ。
受傷後24~72時間の間は、PRICE処置(15~20分)をインターバル(40~60分)をおいて繰り返すのが有効とされている。
PRICE処置は、Protect=保護、Rest=安静、Ice=冷却(24~48時間)、Compression=圧迫、Elevation=挙上、Stabilization/Support=安定/固定(最長48時間)のことで、内出血や炎症による腫れを最小限に抑えることができる。
腫れが長引くことで治りも遅くなってしまうので、早期回復を目指すならやっておかなければならないことだ。
P、I、Sはずっとやっていたが、外に出かけたことでR、C、Eができていなかった。もっと安静しているべきだったか…。まあ楽しんだので良しとしよう。
いずれにしろこの状態ではもう登れない。Mandalaの可能性が見えてきていたのに残念だ。
2月25日 (晴)
今ツアーも今日入れてあと2日半。膝の調子は少しずつ良くなっているが、まだ普通に歩けないレベル。奇跡でも起きない限り、Mandalaにトライすることはできないだろう。
昼までモーテルで寝まくってから近くのスタバへ。ネット環境が良いのでパソコン作業が快適。モーテルではサーバーに繋がりにくかったが、ここなら問題なくHPを更新できる。
途中で、昨日VONSで出会ったケンさん達(P2のお客さん)も来店。一緒におしゃべりを楽しんだ。何だかんだカフェラテ一杯で日暮れまで長居。
クライミングはできないけど、こんなゆったりした一日もたまにはいい。
2月26日 (晴)
明日はロスに戻るので、一日ビショップにいられるのは今日で最後。膝は順調に回復しているが、ボルダリングの着地に耐えられるほどではない。
しかし、登れるのは今日しかないので最後にもう一度だけMandalaを拝みにButermilkに行くことにした。Wilsonsで買い物を済ませ、14時頃にエリアに着く。
Evilutionの前で三人衆に会い、N島兄が昨日メガハイボールで有名なAmbrosia V11を完登したことを聞く。Ambrosiaは15mほどあるハイボールで、上部で落ちたら大怪我は確実、下手したら死にかねない課題。非常に挑戦的で素晴らしい成果である。
三人衆と別れ、最初に目に付いた日本的スケールの岩、Bachar Boulderで遊ぶことにする。手始めにこの岩の三ツ星課題Bachar Problem Left V5にトライ。怪我人にとってはこれでも厳しく、二人ともお互いのふがいなさに笑いこけながらもかろうじて完登。
続いて隣のBachar Problem Right V5も同じように爆笑クライム。おそらくこんな状態の時でなければ触っていない課題だったので、ある意味運命的な課題と言えるかもしれない(笑)
三ツ星ハンターと化した二人は、勢いに乗ってGreen Wall Boulderに突入(一人はびっこ引いてるけど)。Green Wall Essential V2とGreen Wall Arete V1で愉快なクライミングを楽しんだあと、Mandalaのトライを始めたDKの応援にいく。
そして、見るとやっぱりやりたくなってしまうのがクライマーの性。とりあえず膝を完全に固定した状態で取り付いてみるが、着地のことが気になって一手目を出せない。
試しに下で支えてもらって一手目を取った状態からスタートしてみるが、やっぱり半端なく悪くてスタティックで二手目を取りに行くのは厳しいことを知る。ただ、可能性を確認することだけはできた。
まさかこの状態でもう一度Mandalaに触れるとは思っていなかったので、今日はそれだけでも十分に満足。当然心残りはあるが、それは次回の楽しみとしよう。今ツアー最後のクライミングを終え、Buttermilkをあとにする。
帰りの車の中、なぜだがキシタ君の顔つきが渋い。どうしたんだろうと思っていると、彼の口から衝撃の一言が…。「なんか左の指もいてぇ!」
なんと今日のエンクラで別の指まで痛めてしまったらしい。申し訳ないけどこれには思わず笑ってしまった。最後の最後でもう一発とどめを刺されたビショップの鬼。どうやらMandalaの呪いはまだ解けていなかったらしい(笑)
夜はモーテルで、N島兄のAmbrosia完登と福ちゃんの二十歳の誕生日を祝ってみんなで食いまくりパーティー。私達二人にとってはビショップ最後の晩餐でもある。たくさん食ってしゃべって楽しい夜を過ごした。
2月27日 (曇り時々雨)
いよいよ最終日。ビショップともまたしばらくお別れだ。
こちらに来てからマットを一枚購入していたので、持ってきた一枚を郵便局から送ることにする。メトリウスのストンプパッドを送るのに62ドル(約5000円)。キシタ君のボスハグは中にプッシャーのミニマットを入れて70ドルほど。どうやら大きさは関係ないらしく、重さだけで送料が決まるようだ。
うまいパン屋でサンドイッチとお菓子を買って、食いながらロスへ向かう。大した渋滞に捕まることもなく、17時には到着。
サンタモニカのREIとパタゴニアショップに寄ったあと、インド料理屋でカレーとタンドリーチキンを堪能する。そしてロス空港へ。
明日の便に乗るキシタ君と別れ、一足先に帰国の途についた。