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BISHOP ツアー 2011

海外に行く時はいつもそうだ。一週間前にようやく休みが確定し、急いで航空チケットを予約する。こんな直前では一緒に行ける人がいる訳もなく、当然の一人旅。
ビショップに行くのは約8年振り。情報収集のためにネットで検索すると、いまだに過去の自分の記録がヒットする。他に記録を残している人が少ないということだろう。

久し振りに読み返してみると、なるほどあの頃はあんなことをしていたかと、自分でも忘れていたことを思い出させてくれる。過去の自分に情報を貰うのは変な気分だが、改めて記録を残すことの意味を知る。価値を認識できた以上、今回も書いておきたい。

1/12~21の10日間の旅だが、ロサンゼルスのジム視察を予定に入れており、実質登れるのは一週間。半月前に行った連中の話では、今年は雪が多いらしく、バターミルクはとても登れる状態ではなかったとのこと。ハッピーやサッドは登れるようだが、目標課題がバターミルクに多いだけに、雪が溶けていてくれることを期待するしかない。

 

1月12日 (晴) in Japan

どうやら昨日の上級道場で、痛めかけていた指にとどめを刺したらしく、関節がタラコのように腫れて痛い。ツアーまでに状態を万全にしようと、しばらく登らずにレストしていたのに、最後の最後でやってしまうとは何たる失態。
バターミルクで登れない上に、指もこの状態ではテンションが下がる一方だが、ここまできたら腹をくくって行くしかない。成田空港から大韓航空で日本を立つ。

ちなみに今回のチケット代は41500円。サーチャージや空港税等全て込みで7万円弱。(なんと一週間後の出発なら19800円という格安チケットも出ていた。)

レンタカーはAdvantageをネット予約。ざっくり調べた中では一番安い。基本的に海外レンタカーは、日本の仲介サイト(日本語)を通すと高くなるので、直接本家HPで予約したほうが良い。(Advantageの場合は仲介サイトがなく、そうするしかない。)
シンプルな予約システムなので、英語に拒絶反応を示さなければ、誰でも簡単にできる。少しの努力で格段に料金を安く上げられるのだから、やらない手はないだろう。

 

1月12日(晴) in USA (時差により日付は昨日と同じ。)

7時半ロサンゼルス着。入国審査に長蛇の列ができ、予想以上に時間を食う。送迎バスに乗り、予定より一時間遅れの10時にようやくレンタカー営業所へ。チェーンを借りておきたかったが店になく、必要な場合は現地で買うしかない。

ビショップに行く前に、まずはジム視察。22時まで掛けて一気に5件を踏破する。4年振りのロスだが、ジムが増えている割には内容的に大きな進化は見られなかった。

見たいジムは全て見てしまったので、早々にビショップへ移動する。途中のモーテルで泊まるつもりがなかなか現れず、時差ボケ&寝不足がたたってか、恒例の居眠り運転を頻発。早くも後ろのアメ車に恐怖を与える。
このまま徹夜で運転を続ける羽目になるかと不安になるが、23時半、ようやく一軒発見して転がり込む。初日からハードなスケジュールとなった。

 

1月13日(晴)

のんびり11時に出発。途中のバーガーキングで昼食を取り、昨晩のマックに続いて2連発のファーストフード。もっと健康的なものが食べたい!と思うが、ここはアメリカ。不健康な店が大半。ジュースの自販機を見ても、毒々しいソーダしかない。この地で健康を保つためには、自炊を頑張るしかないないようだ。

ビショップまでの広大な砂漠の一本道は、非常に快適。ただ快適過ぎて眠気も半端ない。
途中で現れる街中も気にせず突っ走っていると、バックミラーに見覚えのある光景が・・。夢でも見ているのかと思ったが、赤と青の光り輝く回転灯とけたたましいサイレンは、紛れもない現実だった。

やってしまった・・。スピード違反。どうやら通常は65マイルの制限速度だが、街中になると25マイルになるらしい。69マイル出ていたと言うので、大胆に44マイルオーバー! とりあえず全く英語が分からないふりをして、警官の兄ちゃんとたどたどしい会話をするが、外人さん効果も通じず、淡々と罰則切符を切られる。
3週間後に日本の住所に通知が届き、アメリカまで電話をしなければならないらしい。厄介なことになりそうだ・・。

それでも眠気は収まらず、途中で仮眠を取りながら運転。ビショップに着いた頃には16時を回っていた。バターミルクの様子を見に行きたいが、まずはモーテルを決めておかなければならない。
ネットで調べた資料を参考に、安そうな宿から順に聞いて回り、最終的に2件に的を絞る。一軒はThunderbird Motel、もう一軒はTown House Motel。どちらもネットでは調べられなかったモーテルだ。

インド系オーナーのThunderbirdは、一泊45ドル+TAX。一週間泊まるなら40ドル+TAXでいいと言う。部屋の設備は古めだが、お香の香りがする綺麗な部屋だった。
一方Town House Motelは、人の良さそうな白人おじさんがオーナーで、一泊45ドル+TAXだが、一週間なら何と35ドル+TAX。もしかしてこの街で最安値?
部屋は古い造りだが趣があって、懐かしい匂いのするストーブもある。エアコンじゃないから乾燥しなく良い。文句なしにこのモーテルに決定。面倒臭がらずに探せばあるものだ。

ちなみに今時は、どこのモーテルでもネット(Wi-Fi無線)が使えるようになっている。
キッチン付きモーテルを希望の場合は、日本人ご用達のビレッジモーテル(一泊60ドル)もある。

日本と同じで、17時を回ると外はもう暗くなり始める。気になるバターミルクの偵察は明日に回して、マウンテンショップWilsonsに出向く。
18時閉店の5分前に滑り込み入店。MSRのガス缶を買おうとすると、受付のおじさんが「レジはもう閉めちゃったから使いかけのガス缶をあげるよ」と言って、奥から2個持って来てくれた。何て親切な人。ありがたい。

ちなみに販売しているガス缶はMSRとColeman。MSR缶はおそらくEPI缶と同じ規格なので、日本で通常販売されているヘッドを持っていけば大丈夫だろう。(ちなみに私は昨年ヨセミテで購入したMSR用ヘッドを持参。)

本日最後の活動は、食料の買出し。巨大スーパーVONSへ意気揚々と乗り込む。8年前と全く変わらない店内を見て、懐かしき時代がまるで昨日のことのように思い出される。
驚いたのはVONSカードが今でも使えたこと。デザインも全く変わってない。「世の中、変わらない良さもある」ということを実感。

それにしても、ただVONSカード持っているだけで、合計価格が通常より33%もオフになるとは・・。VONS会員価格になっている商品を狙って買っていたのもあるが、素晴らしい割引率に感激もの。
無料で会員になれるので、一回のツアーだけでも作っておいて損はない。

 

1月14日(晴)

昨晩この記録を書いていたら、寝るのが4時になってしまった。という訳で、今日も昼からゆっくりお出掛け。時差は違えど、日本と変わらない生活。どうせ指も良くならないなら、朝から気合入れて岩場に行くも必要ない。

バターミルクを偵察しに行く前に、昨日見損ねたWilsonsに再訪。品揃え豊富で日本にはない商品もあり、ワクワクしながら物色。ドル安なので価格も激安。
買いたい物がたくさんあるが、とりあえずビショップのNEWトポだけ購入して、念願のバターミルクへ。

しかし、ダートに入ると徐々に道が悪くなり始め、滑る感覚があると思えば、下は泥まみれの雪。露出した地面も溶け出した水の流れでグッポリとえぐれ、普通車で進むには気が引ける状態。
激しい溝を越えるかどうかを一旦止まって悩んだ後、とりあえず突っ込んでみる。しかし、見事に段差崩壊。スタックしかけるが、とっさにアクセル全開で一気に駆け抜け、事なきを得る。
その先はさらに雪がひどくなり、ノーマルタイヤでは不可。敗退決定。

気を取り直し、ハッピーへ。着いた頃には16時で、夕暮れまで残り2時間。まずはRaveの岩に行き、周辺でアップ。しかしV0ですら、指に違和感が出る始末。箱入り娘のように過保護にしてあげないと、今までのレストが一気に台無しになりそうで怖い。

でも、課題があると触りたくなるのがクライマーの性分。前回の宿題Acid Wash V10を見て、思わずやりたくなってしまった。この際ヤケクソということで、トライ開始。
一回目は、出だしのランジで足が地面をこすって終了。二回目は核心のガバ取りでヨレ落ち。少し休んだ後の三回目に何とか完登!
何気にガバ取った後の足送りが悪かった。思いのほか指の状態も悪化せず一安心。

辺りは暗くなり始め、今日はこれにて終了。少ししか登れなかったが、良い課題を登れたので満足。
隣のV7をやりに来た兄ちゃんとしばしの談話を楽しみ、暗闇で頑張る彼を尻目に、エリアを後にする。

 

1/15(晴)

バターミルクに行くためにはチェーンが必要。ということで、まずは近くのAUTOショップ(車の修理屋)に伺い、チェーンを売っている店を教えてもらう。
街のメインロードを北上し、道なりに左へカーブした所から1マイル先にあるKRAGEN(クラーゲン)というカー用品店にあるらしい。

品揃え豊富なKRAGENで、今回のキーグッズとも言えるチェーン(37ドル)を購入し、早速バターミルクへ移動。
チェーンがあれば、もはや怖れるものはない。と思ったが、雪道はハンドルを取られやすく、道の脇に止めてある車にぶつけそうで怖い。それでもチェーン効果は絶大で、無事にバターミルクに到着。

雪はだいぶ溶けており、半分くらいの課題は登れそうだ。週末と言うこともあって、人もたくさん来ている。ポール・ロビンソンの新しいV16を確認してから、お目当てのMandalaへ。
岩の上に雪が乗っているが、リップ周辺は露出している。ただ、融水が絶え間なく滴り、スタート付近が濡れているので、完全な状態になるまでにはもう少し待たなければならない。

14時でもまだ日差しが強く、思ったより暑い。相変わらず指の状態も良くないので、いきなりこんなカチ課題に取り付く気も起こらず、まずは久々のエリアを巡回する。
Buttermilkerを見てみるが、8年前同様、下部がリーチ的に全くできる気がしない。早々に見切りを付け、もう一つ気になっていたHaroun and the Sea of Stories V11へ。

Haroun~Storiesは、岩の模様が美しいフェースライン。高さ7mのハイボールだが、若干トラバースも入るため、登攀距離は10m程になる。
核心は下部だが、持久力的に上部も気が抜けない。比較的大き目のホールドを使う課題なので、今の指でも何とかなりそうだ。

まずはアップで裏のFly Boy V6。こちらは日が当たらず、Mandalaと同様に水の滴りがひどい。
名前通りにリップへランジすると、びしょ濡れですっぽ抜ける。即座にあきらめ、本題へ。

手に足ヒールのムーブが面白いが、見た目以上に次のスローパーが悪い。下部のムーブをばらしたところで、日が暮れて終了。
指の回復のためにVONSでステーキを買う。アメリカは肉が安くていい。

 

1/16(日)

午後からバターミルクへ。Mandalaは相変わらず滴りがひどい。まずはアップがてら、上部の雪かきをする。明日には登れる状態になることを祈って、昨日の続きHaroun~Storiesへ移動。

しかし来るのが早すぎたのか、もろに日差しが当たってBadコンディション。とりあえず中上部のムーブをやってみるが、見た目より傾斜があって力を吸われまくる。まるでルートをやっているかのようだ。
背後にスラブがあるので、落ちれば大根おろしにされる緊張感もある。

下部のムーブも再確認しておいて、日が山に隠れるまでしばし昼寝。そろそろ狙い目かという頃、外人集団がどっと押し寄せてきた。馬鹿でかいマットが大量に敷き詰められ、一気に安全?なハイボールへと変貌する。
緊張感が途切れたが、せっかくなので一緒にセッション。完登狙いのトライを何度かするが、どうもうまく行かない。新たに良いムーブを発見し、確実に登れる目途が立ったが、既に腕が終わっていた。残念ながら本日もお預けとなる。

最初の印象よりだいぶ手こずり、指の状態と皮の消耗が気になるところ。最近登っていなかったせいか、筋力がだいぶ落ちているようだ。珍しく筋肉痛がひどい。
回復を祈って今晩もステーキ。食生活がアメリカ化してきている。

 

1/17(月)

昼間は暑すぎてBadコンディションということで、朝にクライミングして昼間は観光、夕方になったらまた登りに行くというプランに変更する。
気合の朝6時起きを試みるも失敗。結局9時起き。それでもいつもより早い10時半にバターミルクに到着。

完登を急ぐあまり、朝一アップなしでHaroun~Storiesに取り付く。 が、下部を越えるもV9核心パートのパツパツリーチデッドで失敗。回転しながら振られ落ちし、岩盤の上に落下。両足でちゃんと着地したのだが、衝撃で足首を軽く捻挫してしまう。
やってしまった・・。やはりアップは必要のようだ。

それほどひどくないので、テーピングで固定して数回トライするも、徐々に岩のコンディションが悪化。やるだけ無駄な時間帯が来てしまった。
それにしても、着地の度に衝撃で足首が痛く、シューズを脱ぐのが難儀なほど。これ以上やると大怪我に繋がりそうなので、朝の部はこれにて終了。下界に降りて街を徘徊する。

昼はうまいサンドイッチを食べようと、8年前に感激したパン屋を探すがどこにも見当たらない。どうやら潰れてしまったようだ。楽しみが一つ減ってしまった。(後から聞いた話だとちゃんと存在している模様。曖昧な記憶で場所を勘違いしていた。)

暇つぶしにWilsonsへ。前から買い換えようと思っていたペツルのヘッデンと、偶然発見したミウラーの靴紐を購入。日本よりはるかに安いので、買おうと思っていたものは迷わず一気に揃えてしまったほうが後々お得。

夕方に再びバターミルクへ戻る。狙い目の時間帯は、日が陰る16時から日が暮れる18時まで。
ただ、日が陰った後に気温が下がるまでの時間と、日暮れ直前に岩が湿気っぽくなる時間を考慮すると、ベストコンディションと言えるのは16時半から17時半のたった1時間しかない。

以前来たときは昼でももっと寒かったような記憶があるので、今回が特に暑いのかも・・。しかし、冬でもこんなに登る時間帯を気にしなければならないのは、結構なストレス。今まで実質一日2~3時間しか登っていない。

一日の一番貴重な1時間が近づいている。そろそろMandalaに触りたいが、先にHaroun~Storiesを落としておきたい。
わずかな時間で確実に落とせるように集中していくが、やはりパツパツデッドで落ちてしまう。下部は既にオートマチック化しているのだが・・。今までの疲労が蓄積し、持久力が極端に落ちているようだ。

2回目でようやく懸念のデッドが止まるが、その上のプチ核心でヨレ落ち。この手の課題はちゃんと疲労を取らないと、何度やっても無駄なのかもしれない。
3トライする内に、あっという間に日が暮れ、ゴールデンタイム終了。

残りの日数もあと2日半。この課題にここまでハマってだいぶ予定が狂ったが、久々に一つの課題に打ち込む楽しさを味わえて、初心に返ることができた気がする。

 

1/18(火)

午前中を最後のショッピングに費やし、昼からは今回まだ一度も行っていないサッドに行く。
バターミルクの夕方ゴールデンタイムに合わせ、15時半までと時間を限定。以前の宿題を2時間半で片付けられるかどうか・・。

まずは以前V9バージョンを登っていた、ShizaamのフルシットバージョンV11を狙っていく。
とりあえず一撃狙いで取り付くが失敗。一通りムーブを確認した後、二度目のトライでゲット。意外なほどあっさり登れ、Haroun~Storiesと同じグレードとは思えない。
サッドやハッピーは、バターミルクに比べて甘口のようだ。

次の課題は以前一撃を逃したルーフ課題、Beef Cake V10。8年も経つと全くムーブは覚えておらず、初見と何ら変わりはない。8年前の自分に挑戦するつもりで取り付き、今回はしっかりと一撃。8年前より少しはマシになっているようだ。

タイムリミットが迫っているが、Beef Cakeの右抜けバージョンBeefy Gecko V11もできそうに見えたので、後半のムーブを少し確認した後にトライ。
そしてこちらも1トライ目でゲット。あまりにサクサク登れてしまうので、強くなった気がしてしまうが、バターミルクに戻ればどうせ凹まされる事だろう。

なんでこんなにグレード差を感じるのか少し考えてみたが、基本的にバターミルクの課題は、リーチに左右されるものが多いからのような気がする。
Haroun~StoriesのV9核心パートも、でかい奴ならそれほど悪いムーブでもなかろうし・・。とにかく久々の成果に満足し、気分上々のままバターミルクへ移動。

いよいよMandalaにトライする時が来た。今まで毎日Mandalaを眺めていたが、トライしている人を一人も見ることはなかった。一緒にやる人がいればもっとテンションも上がるのだろうが、今は単独でこの巨壁に対峙するしかない。
基部から見上げると、覆い被さるような岩塔に極薄のエッジが散りばめられ、強烈な威圧感。この課題は是が非でも登りたいと思わせる崇高なオーラを放っている。

緊張のスタート・・。ゆっくりと左アンダーをロックし、狙いを定め、右手をマイクロクリンプにデッド。辛うじてエッジの感覚に触れるが、止めることは叶わず、急激に地面に引き戻される。
しっかりとタイミングを合わせ、ピンポイントで行かなければ、止められる代物ではない。ワントライごとにゆっくりレストしながら・・といきたいところだが、刻一刻と夕闇が迫る中、そんな余裕はない。

腕の疲労をごまかし、トライを重ねる。着実に高まりつつあるエッジの感覚、と同時に増していく左肘の違和感。この逆手アンダーの引付けは、極端に肘の負担が高いようだ。
空には星が輝き始め、もはや周りには誰もいない。ヘッデンの灯りのみを頼りに、この岩の楽園でただ一人、最高の課題に向き合う至高の時。
気温は下がり、コンディションも申し分ない。どうしてもこの時との別れが惜しく、無駄なトライと分かっていても続けてしまう。
やがて完全なる夜が訪れ、諦めきれない気持ちに終止符が打たれる。わずかな、本当にわずかな時間だったが、理想の空間に身を委ねることができた。

こんなクライミングをもっと味わいたい。クライマーの本能に訴える何かが、飽くなき想いを生み出し続ける。
残すところあと1日半。結果はどうあれ、自分の求める最高のクライミングをすることが、今ツアーの大きな意味となるだろう。

 

1/19(水)

丸一日登れるのは今日で最後。ということで今まで未遂に終わっていた早起きを実行し、9時にはバターミルクに到着する。
今日のプランは、まず午前中にHaroun~Stories V11を片付け、昼間はサッドでBeautiful Gecko V12、ハッピーでKill Onsight V12を登り、夕方になったら再びバターミルクでMandala V12にトライするという夢のハードスケジュール。

Buttermilk Stem V1(sit V5)という便器の形をした面白いステミング課題でアップし、Haroun~Storiesへ。
もはや通い慣れた道だ。今ツアーの大半はこの課題に費やしたと言っても過言ではない。いい加減登りたいが、なかなか気持ちに体が追いついてこない。

一発目から狙っていく。下部は問題なく突破。しかし、恒例のパツパツデッドのパートで、止められるイメージが沸かず、躊躇してフォール。
今日は風が強くコンディションも上々なのだが、どうやら昨日指皮を消耗し過ぎたらしい。皮が柔すぎてカッチリとホールディングできず、全く安定感がない。

ムーブを再度探り直して悪あがきを試みるが、それが余計に指皮のダメージを悪化させてしてしまった。ヒリヒリし過ぎて、もはやホールドに触れるのも苦痛。この瞬間、繋げられるイメージが完全に消えた。
明日までにこの皮が回復するとも思えず、残念ながら今回のHaroun~Storiesはこれで終了。この地に因縁の課題を残すこととなった。

Mandalaにも取り付いてみたが、指皮も含め、全てが終わっていた。この状態でやるのは全く無意味。
帰り際、興味本位でPlain High Drifter V12にも触ってみるが、これも激カチ課題で最後のダメ押しを食らう。身も心もボロボロになり、バターミルクを後にする。

こうなっては砂岩のエリアが最後の頼み。花崗岩に比べれば、指皮の痛みはだいぶましだ。昨日見てできそうに見えた、サッドのBeautiful Gecko V12を最優先でやりに行く。
ルーフに悪いホールドが続くこの課題は、ホールドをいかに利かせるかがポイントで、ムーブを見つけ出すのに一苦労。何とか解読を終えた頃には夕方になっていた。
昼でも暗いこのルーフ。日が落ち始め、ヘッデンを付けながらでないと、ホールドの位置がよく見えない。体力的にも時間的にも、おそらく次が最後のトライとなるだろう。

高まる緊張感を抑え、スタートを切る。少しでも気を抜けば、落ちるのは分かっていた。心が折れないように声を出し、神経を研ぎ澄ませる。
指の痛さも体の疲労ももはや関係ない。最大の核心を向かえ、全てをそのワンムーブに集中する。
気付けば地の底から抜け出し、眼前に見覚えのある光景が広がっていた。その瞬間、無意識に声を上げた。

満足している。決してカッコいい課題を登れたからでも、高グレードを登れたからでもない。
ただ、今在る力を出し尽くし、極限まで集中力を高め切れたこと、そして、一瞬と言えど全てを捧げるクライミングを実現できたことに。

 

1/20(木)

いよいよ最終日が来てしまった。15時頃にはロスに向けて出発するつもりで、今日も早起きを敢行する。期待した指皮の劇的回復はなく、Mandalaにもはや望みはない。
因縁の課題として、Haroun~Storiesと共に次回へ持ち越しだ。ツアー最後の1ページはハッピーで飾ることにしよう。

まずはアップで、まだ行ったことのないClapperエリアへ行く。昨日の疲労が抜けず、すぐに動く気にはなれない。のんびりと課題を散策していると、マットを持たない一人のアメリカ人が現れた。
一緒に登って良いかと言うので、もちろん快諾。一緒にアップを始める。彼の名は「マイク」。先日山登りとスキーに行ってきたらしい。ビショップはスキー場もあるようだ。

徐々に登るグレードを上げていき、このエリアの三ツ星Clapper V6でセッション。V6なのですぐ登れるかと思えば、意外と悪い。日当たりが良く、リップのスローパーがヌメりまくる。何だかんだでムーブを探りながら10回近くトライ。
最終的には嫌がる指に鞭打って出力アップし、貴重な指皮と引き換えに完登する。体感V8位。
マイクも同様にどはまりしていたが、途中であきらめ「Next time !」と言って終了。

次は右隣のエリアに移動し、ハッピーのV8看板課題High Browに挑戦。ハイボールのどっ被りカンテで、ランディングはまあまあ。メトリウスのストンプパッドとプッシャーのスポット(ペラペラの薄いマット)だけで何気なく取り付こうとすると、「Crazy!」とマイクに言われる。
「Please take a picture.」と言って彼にカメラを渡すと、スポットはいらないのか?と困惑の表情。

一撃を狙っていったが、一回目は出だしのヒールでスリップ。二回目は下部のムーブを読み違い。三回目で上部核心へ上がり、そのまま完登した。
カンテの突端で足ぶらで振られる爽快なムーブが、いい感じにアドレナリンが出て楽しい。見た目、内容共に素晴らしい課題だ。

マイクのV5トラバースを見学した後、本命のSlow Danceエリアへ。Slow Dance V10はホールドが痛すぎて今の指皮では無理なのが分かり、隣のKill Onsight V12へ変更。まずはそのスタンドアップバージョンStanding Kill Order V11をやることにする。マイクは隣のRave V7にトライ。
マイクと一緒なので何となくエンクラっぽい雰囲気で、適当にムーブを探る。

裏のAcid Washに人が集まって来たなぁと思ったら、その4人グループはマイクの友達だった。みんなロスに住んでいて今回は偶然出会ったようだ。
その内の一人の女の子がこっちのエリアに来て、ニコニコしながら話しかけてくる。若い子には珍しいくらい愛想の良いこの子の名は「エミリー」。マイクと一緒にRaveをトライし始め、ムーブを教えてくれというので軽くレクチャー。

そうこうしている内にもう一人の女の子も様子を見に来る。どこか日本人っぽい顔をしているなぁと思ったら、やはりハーフ。最初は英語で話していたが、私を日本人と知ったら、「おばあちゃん、茨城の土浦に住んでる。」と片言の日本語で話し出した。
「サラ」と言う名のこの子は、日本人の母親を持つが、日本語はあまり話せない。現在、大学で日本語を勉強中で、卒業後は大好きな京都で英語の先生をやりたいらしい。
英語と日本語の混じった会話で、お互い勉強がてら楽しく会話をする。

ムキムキでおしゃべり兄ちゃん「レオ」は、陽気に独り言をかましながら隣のLast Dance V9を打ち込み、もう一人の落ち着いた雰囲気の兄ちゃん「アレン」は、裏側でビシバシとAcid Washを打ち込んでいる。
それぞれがそれぞれの課題に執念を燃やし、どの国に行ってもクライマーは同じだなぁと感じさせられる。異国でも一つの趣味を通じて価値観を共有できることは素晴らしいことだ。

和気あいあいと話をしながらのんびりやっている内に、Standing Kill Orderの核心ムーブがきまり、そのまま気合の完登をする。予期せぬ収穫とはこのことだ。
まだ時間もあるので、欲を出してSDのKill Onsightにも手を出してみる。やってみると意外と下部のオリジナル部分は問題なく、上部に繋げられるかどうかという課題だ。
昨日のBeautiful Geckoより幾分登り易い印象だが、既に指皮と疲労が限界に来ており、なかなかに厳しい。

15時に上がる予定が、微妙に登れそうで登れない状態が続き、結局日暮れまでいることになってしまう。そして最終的にはやはり完登できず・・。
暗くなってもまだがんばっている彼らに別れを告げ、名残惜しくその場を去る。

しかし、駐車場でロスに向けての準備をしていると、その後降りてきた彼らと再会。一緒に飯に行こうと誘われる。ロスまでの運転に支障をきたすと思い、一旦は断るが、せっかくの機会なのでやはり行くことにする。こうなったら後の運転ことなどどうでもいい。

みんなでビショップの町にあるピザファクトリーというピザ屋に行く。小さなゲームコーナーがあり、ピザができるまでの間、マイクはゲーム、サラはダンスダンスレボリューション、後の4人はテーブルで会話という不思議な空間が出来上がっていた。
ちなみにダンスダンスレボリューションは日本発のゲームだが、こっちでも流行っているらしい。

でかくてうまいピザを食いながら、みんなで会食パーティー。このグループはジム繋がりなのか聞いてみると、それぞれ違うジムに行っているようで、ジム間を通した交流のようだ。マイクはHanger18 Upland、サラはThresh Hold、レオはHanger18 Southbay、アレンとエミリーはHanger18 Riverside(ちなみにアレンはスタッフ)と見事にバラバラ。

アメリカと日本のジムの違いや、「この言葉は日本語で何と言う?」などの話で盛り上がる。日本に帰ってからも、彼らとはFaceBookで連絡を取り合えるようだ。
最後は、お互い「Next time !」で別れを告げた。本当にいい奴らだった。ビショップはいずれまた行くだろうし、次回会えるのが楽しみだ。

さて時刻はもう20時。楽しんだ分のしっぺ返しが待っている。途中で眠くなるのは必至だが、明日の朝7時までには必ず到着しなければならない。
切羽詰った状況なら大丈夫だろうと思ったが、飯を食って眠くならない訳がない。計画的に高速の路肩で仮眠しながら(現地でもこんなことしている人は誰もいないが・・)、着実にロスに向かう。

ようやくAdvantageの営業所に着いた頃には深夜2時半。それでも思ったよりは早い。もはやわざわざモーテルに泊まる時間でもないので、営業開始の5時まで車中泊でしのぐことにする。(やはり誰もこんなことしている人はいないが・・)。
無事早朝を迎え、レンタカーを返却。帰国の便に乗る。

毎度の如く、慌しく始まり、慌しく終わる海外ツアー。
費やすエネルギーは相当のものだが、その分の見返りも大きい。日常の狭い世界から一歩踏み出せば、そこにはまだ知らない「新しい世界」が広がっている。

 

Hanger18 Southbay
≪ Hanger18 Southbay ≫
昔ながらのボルダー壁。
Boulderdash
≪ Boulderdash ≫
店名の割にロープメインのジム。
Thresh Hold
≪ Thresh Hold ≫
若者が多く、一番活気のあったジム。
壁もスケールがあってGood。
Hanger18 Riverside
≪ Hanger18 Riverside ≫
これも良い傾斜。
アメリカはジムのスケールがでかい。
モーテル
≪ モーテル ≫
古びた造りで味のあるモーテル。
腫れた薬指
≪ 腫れた薬指 ≫
タラコのようにぷっくり。
Acid Wash V10
≪ Acid Wash V10 ≫
出だしのランジ。
Good Problem !
バターミルクへの道
≪ バターミルクへの道 ≫
とりあえず突っ込んでみた。
銚子滝6m
≪ 雪景色 ≫
結構積もってます。
バターミルク1
≪ バターミルク1 ≫
日当たりが良く、雪はだいぶ
融けている。
バターミルク2
≪ バターミルク2 ≫
看板巨岩のグランパ・グランマ。
Haroun~Stories V11
≪ Haroun~Stories V11 ≫
バターミルク一押しのV11。
ギャグではなく、本気でこのムーブ。
Shizaam V11
≪ Shizaam V11 ≫
カチ抱え込み課題。
Beefy Gecko V11
≪ Beefy Gecko V11 ≫
暗いルーフ。昼でも涼しい。
Buttermilk Stem V1
≪ Buttermilk Stem V1 ≫
自然にできたにしては奇跡的な形状。
ムーブも面白い。
Beautiful Gecko V12
≪ Beautiful Gecko V12 ≫
保持力と体幹の課題
ムーブを探る面白さがあった。
Clapper V6
≪ Clapper V6 ≫
グレードより難しい。
クライマーはマイク。
Clapper V6
≪ Clapper V6 ≫
高台にあるエリアで気持ちが良い。
リップのヌメリがやばい。
High Brow V8

≪ High Brow V8 ≫
カッコいいどっ被りカンテ。

上部がエアリー。

ハッピー風景
≪ ハッピー風景 ≫
青空に映えるボルダー達。
Rave V7
≪ Rave V7 ≫
スローパーを駆使する人気のV7。
Kill Onsight V12
≪ Kill Onsight V12 ≫
フックムーブを使った
ジムナスティックな課題。
現地での出会い
≪ 現地での出会い ≫
真ん中がサラで右がレオ。
ロスのイカした仲間達
≪ ロスのイカした仲間達 ≫
左2番目からマイク、レオ、サラ、アレン、エミリー。

【 TOURデータ 】

  • 場所 : アメリカ 「Bishop」
  • 行程 : 成田→ロサンゼルス→ビショップ
  • 日程 : 2011/1/12~21
  • エリア : Happy, Sad, Buttermilk  etc.
  • ベストシーズン : Happy, Sadは冬  Buttermilkは秋から春(冬は雪の状態次第)
  • 最新トポ : ビショップの街中にあるマウンテンショップ「Wilsons」で販売 
  • 航空チケット検索サイト&代金 : トラベルコちゃん  41500円
  • 航空代金総額(チケット、サーチャージ、空港税等全て込み) : 7万円弱 
  • レンタカー会社&検索時の料金 : Advantage  154.16ドル/9日間
  • レンタカー実額(現地任意保険LDW&LIS込み) : 375.54ドル 
  • 格安モーテル&住所 : Town House Motel  625 N Main St, Bishop, CA 93514
  • モーテル宿泊代 : 45ドル+Tax/泊  一週間滞在の場合、35ドル+Tax/泊
  • 為替レート : 83円/ドル

 

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