10月2日(晴)
久しぶりの越後の沢である。駒ケ岳に詰め上がる沢は水無川北沢、オツルミズ沢に続き、これで3度目。
越後ならではのスケールに期待して銀山平へ向かう。北ノ又川左岸を走る林道は入口で通行止めとなり、ゲート横にある一台分の駐車スペースに車を止めて出発。白沢出合から遡行を開始する。
膝までの渡渉を繰り返すと、岩魚沢出合でゴルジュとなる。突然狭くなったゴルジュの入口は大きな瀞となり、通過するには泳ぎが必要。10月の冷水に泳ぐ気にもならず、胸までの渡渉で右岸に渡ってから巻く。
急なヤブから尾根を越え、支沢を下降し沢に戻る。
磨かれた花崗岩のミニゴルジュを通過し、滝ハナ沢出合までゴーロを歩く。最初の3m滝は右岸から小さく巻き、続く3m、6mの2段滝も右岸から巻く。
綺麗なスラブ状ゴルジュは難しそうな小滝が連続するが、実際に取り付いてみると見た目ほどではなく、どれも楽しく登って行ける。
広河原を通過し、いよいよ大スラブ帯に突入かと思ったが、初っぱなから雪渓となる。安定した雪渓なので内部を進むことにする。
完全なトンネル状で結構長い。150m位はあるだろうか。徐々に暗くなってきたので、途中でヘッドランプを出す。時折現れる小滝は側壁トラバースで通過。
わずかな明かりを頼りに出口へ向かうと、光の中から徐々に滝の姿が浮かび上がってきた。
何とも幻想的な光景である。
雪渓を出ると眼前には広大なスラブが広がり、凄まじいスケールで迫ってくる。
その中央に位置する40m滝は、まるで絵画から抜け出したかのような美しさで、自然の造形の妙にただただ驚嘆するばかりだ。これほど荒々しくも優雅な滝は今まで見たことがない。
ゆっくりと眺めていたいがそうもいかないので、名残惜しく右壁を登る。高度感はあるが、ホールドがしっかりしていて登り易い。
すぐにまた巨大な雪渓に阻まれるが、今回は長く続きそうなので左のスロープから上部に上がる。
やはり二俣まで延々と雪渓が続き、内部に40m滝が存在することなど想像もできない。
二俣では前方には左俣大滝60mが落ち、思わずそっちに行きたくなるが、本来行くべき先は右俣。
右俣も大滝60mのはずだが雪渓に隠れて下部は見えない。奥には7段200mと言われる滝も見え、ここからいよいよ核心部へと入っていくことになる。今回は雪渓の状態が良く、滝の右壁(リッジ状)に簡単に取り付くことができた。
容易な壁を登っていくと、上部でヤブへ導かれることに気付く。巻いてしまうと沢床に戻るのが面倒なので、他のラインを探すことにする。
リッジから滝を覗きこむと、水流右が簡単に落ち口に出られそうだ。クライムダウンしてリッジを回り込み、滝身に取り付いてみる。
しかし実際には滝身に移るのがいやらしく、結局元のラインに逆戻り。大人しく巻きに入り、すぐ上の登れなさそうなトイ状10m滝もまとめて巻く。
下降は草付混じりの露岩となり、クライムダウンするには少々いやらしい。無理をせず、ヤブ支点の懸垂下降15m&クライムダウン5mで沢床に戻る。
7段200m滝の手前はズタズタのスノーブロックに埋め尽くされ、刺激を与えないように間をぬって通過。そのまま右壁に取り付き、一段目のテラスに上がる。
景色が良く絶好の休憩ポイントだ。ここで昼食とする。
一息付いた所で登攀開始。4段目までは弱点を突いて右壁を登る。基本的には見た目より登り易いが、ライン取りが悪いのか一箇所露出感のある小ハング越えを強いられる。
上部はトイ状となり、右のヤブに入って巻く。
落ち口付近で先を見渡すと、遥か前方に真っ黒で巨大な滝が落ちているのが見える。予想外の滝に一瞬戸惑うが、とりあえず今の巻きを終えることに専念する。
ヤブを伝って落ち口に出ると、先にはまだまだゴルジュが続いている。
悪そうな3m滝は左岸をシビアなへつりで通過。すぐ上には7m滝。こちらは直登できるような弱点がなく、唯一可能性がありそうなのは左岸巻き。とは言っても傾斜があるので巻ける確証はない。
上がってしまってどうしようもなくなる状況も想像できるが、戻って大きく巻くのも面倒なのでとりあえず取り付いてみることにする。
まず手前の垂壁ラインを試みるが見た目より悪い。滝寄りのせり出した岩を登った方が、上の傾斜が緩く易しそうなのでラインを変更する。
いざ被り気味の下部をこなし上部へ上がるが、その先にはまともなホールドが見当たらない。もはやこの状態からのクライムダウンも危険なので、このまま進むことにする。
微妙なフリクションクライムに何度も躊躇しながら、思い切って一歩を踏み出し、慎重に草付ルンゼに逃げ込む。
今回一番のシビアな登攀となった。
ロープで確保されていればすぐに行けるのだろうが、失敗が許されないフリーソロでは踏ん切りがつかないことがよくある。先に進める確証がなければ尚更だ。
上がってしまって動けなくなる状況だけは絶対に避けなければならない。
不確定要素の強い登攀は恐ろしいが、経験上このレベルの越後の沢では大抵1度はこういう登攀を強いられている。北沢然り、オツルミズ然りである。
ただ私の遡行スタイルがまずいだけなのかもしれないが・・。
草付ルンゼに入った後は思ったより傾斜が緩く、バンドをトラバースしてヤブに入る。ゴルジュ内にはまだ滝があり、前方には先ほど見た黒い滝(仮称:黒滝)がいよいよ近づいてくる。
懸垂下降で一度沢床に降りることも可能だが、また悪い巻きをさせられることを想像するとその気も失せる。多少面倒なヤブ漕ぎだが、黒滝まで巻き続けることにする。
近づくと黒滝はざっと50m程であることが分かった。左岸にカール状のスラブを持ち、かなり立派な滝である。ここで気付いたのだが7段200mの滝とはどうやらこの滝までのことを言っているのではないだろうか。
だが地形図を見る限り、この区間の登高差は200mもなく(180m位)、何より滝と滝との間が離れ過ぎている。一つの滝としてまとめるには少し大雑把すぎるのでは・・。
地形図と照らし合わせた限りでは最初の滝を7段100m、黒滝を50mとするのが妥当に思う。中間の滝を合わせれば計算上はぴったりである。
黒滝は傾斜が緩く快適に直登できそうだが、沢床まで降りるのも面倒くさい。カール状スラブをそのままトラバースし、落ち口に出る。
5mほどの小滝を2つ直登していくと奥の二俣となる。
右俣に入るとすぐに登れない6m滝が現れ、左岸を小さく巻く。巻き途中ふと先を見ると、遠方にまたしてもでかい滝が・・。
何かの間違いではないかと地形図を確認するが、どうやら支沢の滝ではなさそうである。
トイ状2段15m滝を右岸から巻く途中でもう一度先ほどの滝を確認してみるが、ざっと30m位はありそうだ。
次から次へと予想外の滝が出てきて面白い。
2段15m滝の巻きから沢床には降りず、そのまま草付きバンドをトラバース。30m滝の中間部に取り付き、水流左を直登し滝頭へ出る。
これを最後にさすがの滝ハナ沢も穏やかとなる。最後の二俣を左に取り、草付きを登って稜線へと上がった。
登山道で駒ケ岳ピークへ。快晴無風で暖かい。360°の大パノラマを見ながらしばし放心。緊張感から解き放たれたこの瞬間が何とも言えない。
本日はすぐ下にある駒の小屋で宿泊とする。
10月3日(晴)
一般登山者の御来光タイムにつられて早起きし、再びピークへと上がる。久々の御来光は清清しく、素晴らしい朝を迎えることができた。
下山は道行山から北ノ又川林道に下る廃道を使う。廃道の割りには意外としっかりした道で、予定より早く駐車場まで戻って来ることができた。
白銀の湯で疲れを癒し、銀山平を後にする。
滝ハナ沢は「さすが越後の沢」と呼べるスケールの大きな沢であった。強烈なインパクトで迫る巨大な滝々の絶景は一生忘れられないだろう。
右から巻き気味に越える。
見た目より登り易い。
内部へ進む。
ケービングしている気分。
光の中心に40m滝が見える。
岩の世界に浮かぶの白布の流れ。
今回は上部へ上がる。
遥か彼方に滝が見えている。
谷のスケールが大きい。
右壁(リッジ)を登りヤブに入る。
巨大な壁のよう。
水量は少ないが威圧感が凄い。
ズタズタのブロックが組み合わさってバランスを保っている。
右壁を登る。
左岸を微妙なへつりで通過。
左岸の草付ルンゼに上がって巻く。
ルンゼに上がるまでが悪い。
遥か前方に黒く巨大な滝が見える。
堂々とした立派な滝。
草付露岩帯を落ち口へ向かう。
岩のV字谷で開放感抜群。
左岸から巻く。
これも登れない。右岸巻き。
予想外の滝。
途中まで巻き、上部は水流左を登る。
夕暮れも近い。
駒ケ岳ピークにて。
清清しい朝を迎えた。
下山途中に振り返る。
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真夏なら泳いだ方が早そう。