夏もいよいよ本番。やっと天気も安定してきたので、泳ぎの沢へ行くことにする。丹波川と一ノ瀬川の本流は興味深いゴルジュ帯を有し、特に丹波川は以前から行ってみたい沢の一つであった。
一ノ瀬川も前回の大常木谷アプローチの際に、そのゴルジュの凄さを垣間見たので、まだ見ていない下流部分が一体どんな渓相となっているのか、非常に気になるところである。
どちらも本流のゴルジュ部分のみの短い遡行なので、今回は2本を繋げて遡行することにした。
丹波川からスタートするが、梅雨明け直後のためか、通常より水量が多いようである。元々一大本流ゆえ、普通の沢に比べれば格段に多いはずだが、なにぶん平水を知らないので、「これが普通なのかもしれない」と思い込んで入渓することにした。
最初の淵は右のハングをへつっていくが、行き詰まったので、釜に飛び込んで対岸に泳ぎ渡る。
犬戻りは右岸トラバース後、クライムダウン。激流の落ち口付近のトラバースはスリルがあった。
坊主淵は左岸から。とにかくドバドバと大量の水が流れ、威圧感のある渓相が続く。
手取淵はガイドによると「水量が多い時は途中で右岸に移る」とあるが、今日はとても移れる状態ではない。一度流されたらどこまでも流されていきそうである。命の危険を感じるので、大人しく左岸から巻く。巻きは容易。
胴木滝10mも滝身に取り付く気すら起きず、左岸を巻く。上から見た滝の流れは迫力満点。
いくつかの淵を越えていくが、水量のせいか、ちょっとした所が意外にいやらしい。丸山入道淵も泳げるようにはとても見えず、右岸から巻く。
一ノ瀬川が右から合流したところで、銚子滝8mが現れる。見栄えの良い滝だ。とりあえず、上のオイラン淵を見るために、右岸を登る。
オイラン淵では、狭いゴルジュの奥に10m滝が落ちていた。豪快で格好良い滝なので、曰くの伝説がなければ直登に挑戦してみたい滝である。
写真に収め、銚子滝をクライムダウンし、一ノ瀬川出合に戻る。
一ノ瀬川は出合から流れの速い淵となり、左岸側なら何とか泳げそうだが寒いので却下。右岸のツルツル壁を微妙なバランスでトラバースする。
しばらくは平凡な渓相が続き、先ほどの丹波川の水量と比べてしまうと、少々物足りない。
第1のゴルジュに入ると、いよいよ本格的な廊下となるが、本来なら猛烈に泳がなくてはならなそうな所も、流木を利用して難なく通過していく。
第2ゴルジュになると、さらに深い廊下となる。一見厳しそうな箇所も意外に弱点があるもので、ほとんどへつりで突破できる。
ふと前方に目をやると、不自然な赤い物体が見える。何だろうと目を凝らすと、それは人であった。先行パーティーがいたのである。どうやら先の淵が突破できず、左岸の側壁を登って巻く所のようだ。
そこは前回の大常木谷アプローチの際に、懸垂下降した後、結局登り返した場所であった。改めて流れの速い淵を見てみるが、どう見ても水線突破できるように見えない。
やはり巻くしかないが、そのパーティーのご厚意に甘え、ロープを借りることができた。いざとなったらフリーソロをするつもりでいたが、上部は垂壁なので、ロープがあったほうが無難ではある。
一番の山場をあっさりと越えたので、後はのんびりと遡行する。しかもここから先は前回経験済み。
一旦谷が開けた後、再び廊下が始まる。渡渉へつりを繰り返し、細い激流にある1m滝を右から越えると、完全にゴルジュは終わった。
大常木谷出合を通過し、記録にある「5m幅広滝ナイアガラNo.2」を見るために、もう少し上流まで遡行を続ける。
しかしそれらしき滝が現れないまま、サワラ谷出合に着いてしまった。滝は消滅したのだろうか?
これ以上進むのも無駄なため、サワラ谷から林道へ上がって遡行を終了する。
泳ぎメインで今回の沢を選んだが、結局泳いだと言えるところは、丹波川の最初の淵だけであった。
しかし、今回のような豊富な水量を持ったゴルジュの遡行は、通常とは違った技術・精神力・判断力等を要求され、沢登りの冒険的要素を充分に満たしていたと思う。
丹波川、一ノ瀬川、この2つを繋げることにより、格段に充実した遡行となった。