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キギノ沢

暗く苔むした沢筋に続く遊歩道を歩くこと1時間。キギノ沢出合へと到着する。
既に上流域のため水量は少ない。通常の沢ならば、後は平凡な詰めをこなして終了となろうが、 この沢の場合はここからが始まりとなる。

巨岩帯を越えると、両岸側壁が切り立ち、ゴルジュ帯へと突入する。最初に現れたのは美しい10m滝。
一見右壁を直登できそうだが、上部が厳しい。左岸手前の斜面から落ち口へとトラバースするが、数歩が悪く、いきなりの緊張を強いられる。

切り立つ側壁に、この先への期待感が高まる。
流れを二分する多段25m滝は、中間の壁を登るが、途中から急な土壁となり、簡単には越えさせてくれない。
見た目より悪く、念のためロープを出す。上部は滝の右側に移り、小さく巻くように越える。

二俣を右に取り、小滝をやり過ごすと、チムニー状の8m滝に遮られる。暗い沢筋で、一人直登を頑張る気にもなれず、左岸から巻くことにする。
ラインはスラブ壁もしくは、その右のルンゼ。どちらも悪そうだが、ルンゼの方がホールドが多く、上部には残置スリングもある。

残置を信じてルンゼを選択。先が読めないため、ロープを出す。アンカーはハーケンと木の根。
案の定、ホールドが脆い上に泥で滑り、いやらしい登攀となる。凹角でシビアなバランスを強いられながらも、何とかハーケン支点を取って進んでいく。

気の抜けない泥クライミングの連続で、残置スリングに到達。上部にもう1本ハーケンをきめ、凹角から左の土壁へと出て行く。
ハンマーのピックを使っての慎重な登りで、上部の樹林帯に逃げ込んだ。

ここまで陰鬱で泥臭い登攀は久しぶりだった。一般的に登られているラインとは思えず、スラブラインの方が正解だったのかもしれない。
樹林帯からそのまま次の8mCS滝まで巻く。

側壁は高まり、井戸底のようなゴルジュとなる。
出だしの3m滝を登ると、奥には15m滝が谷を塞ぐ。落ち口からロープが垂れており、「まさか!?」と思って恐る恐る釜を覗き込むが、何もなく一安心。

この滝は過去に事故があり、どこか不気味で直登する気になれない。
一旦ゴルジュを出て、右の支沢から巻くことにする。滝を登り、草付から岩壁の切れ間を抜け、岩稜へと出る。ゴルジュ内を拝見したいが、微妙に見えそうで見えない。

どうしても気になり、懸垂下降で内部視察。
ドキドキしながら覗き込むと、深くえぐれたゴルジュの中に、3つのCSが団子のように積み重なっている。
これはもしや・・、「CS三兄弟・・滝?」
高さはおそらく15mほどだが、ハングしたCSを越えるのは至難の業。ゴルジュ内の完全遡行が果たされていないのも頷ける。

上部を見渡せば、先にはいかにもいやらしそうなCS滝が続いている。側壁に弱点はなく、一旦ゴルジュに降りたら直登していくしか術はない。
日帰り行程なだけに、絶悪なゴルジュに安易に降りて、時間をロスするのだけは避けたい。
直登が難しそうに見える5mCS滝上まで巻くことにする。

15mの懸垂で沢床に降り立ち、直下の5m滝を確認すると、なんと右岸に残置スリングがある。
どうやら先人は、これを人工で越えていたようだ。近づいてみないと分からないものである。
もう少し冒険しておけば良かったと思いつつ、先を急ぐ。

5m滝は左岸のクラックバンドから登り、4mCS滝を右岸から小さく巻く。3mCSは右岸水流沿いをマントルで越える。
小滝と言えど、いちいち難しい。
側壁を登ってゴルジュから出ることは厳しく、内部で上手く処理していくしかない。

3mCS滝は残置利用のエイドで右壁を登り、4mCS滝は右、7mCS滝は右岸小巻き、8mCS滝は右岸バンドからスラブを登る。
気の抜けないCS滝群に都度プレッシャーを掛けられながらも、何とかゴルジュを突破した。最後は大キギのコルに詰め上がって終了。

両神山ピークを踏み、竜頭神社奥宮から旧道で下山するが、この道は前半全てに鎖が付いているほどの急傾斜。もともと修験者のための道だけあって、下山も気が抜けない。
薄暗い森に不気味に浮かび上がる「油滝」を本日の見納めとし、この山域を後にした。

 

キギノ沢は、暗く陰鬱なゴルジュにCS滝が続く、非常にマニアックな沢であった。
上流域のため、スケールが小さく、水量も少ないが、ゴルジュの切り立ち具合、滝の困難さは、さすが関東随一の険谷と言える。
静かで原始的な雰囲気も悪くない。ただ、美しさよりもやはり困難さを求める人向きの沢と言えるだろう。

最初の10m滝
≪ 最初の10m滝 ≫
いきなり緊張させられる。
多段25m滝
≪ 多段25m滝 ≫
この沢で一番明るい滝。
25m滝上段
≪ 25m滝上段 ≫
岩肌が美しい。
チムニー状の8m滝
≪ チムニー状の8m滝 ≫
左岸ルンゼから巻いたが
最悪の登攀となった。
15m滝
≪ 15m滝 ≫
残置ロープが垂れている。
敗退の名残だろうか・・。
幻のゴルジュを覗く
≪ 幻のゴルジュを覗く ≫
懸垂下降にて。
手前の岩がCS三兄弟のTOP。
CS滝群
≪ CS滝群 ≫
上部の5m滝まで巻く。
3mCS滝
≪ 3mCS滝 ≫
右壁の残置を利用してエイドで越える。
7mCS滝
≪ 7mCS滝 ≫
こういう一見焦る滝が多い。
右岸から小さく巻く。
8mCS滝
≪ 8mCS滝 ≫
最後の悪場。
右岸バンドからスラブを登る。

【 遡行データ 】

  • 対象 : 両神山 尾ノ内沢 「キギノ沢」
  • 行程 : 「キギノ沢」遡行~旧登山道「尾ノ内ルート」で下山
  • 日程 : 2009/8/14 日帰り
  • 形態 : 単独
  • ギア : 三つ道具、スリング、アブミ、8mm30mロープ
  • コースタイム :
  • 8/27  尾の内自然ふれあい館P(6:05)-キギノ沢出合(6:55~7:05)-多段25m滝下(7:40)-二俣(8:30)-15m滝手前ゴルジュ入口・巻き開始(10:05~10:20)-巻き終了(11:25~11:35)-上部二俣C1350(12:00~12:10)-登山道(13:10~13:35)-両神山(13:55~14:15)-油滝(16:05~16:25)-P(17:30)

 

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