奥美濃渓谷を代表する断崖絶壁の谷、それが川浦谷である。
今や観光スポットと化し、人工物が目立つ流域となったが、深い切れ込みを持つゴルジュ帯はその筋の沢屋には決して放っておけない存在であろう。
短い距離だが一直線に続くゴルジュの攻略は大いに興味をそそられる。
2日前に支流の「海ノ溝洞」を登り、他に類を見ないほど異形なゴルジュ帯にすっかり虜にされてしまった。そんな人間が次に目指すのはここ本流のゴルジュしかない。
小雨がぱらつき天候はイマイチ。川浦谷キャンプ場へと続く遊歩道を下り、沢床に降り立つ。
広い渓相だが、いきなり50m、30m、10mと連続して瀞が現れる。川幅一杯の流れをへつりや泳ぎで越えていく様は、沢登りと言うよりむしろ川登りという表現が合うかもしれない。何度か瀞を越え、やがて海ノ溝洞出合となる。
出合付近も深く屈曲した瀞が続き、側壁をトラバースする。バンドを伝って岩棚に上がると、先には今回初となる滝。
1.5mほどで高さはないが、豊富な川浦谷の水量を一気に集め、迫力がある。
側壁をクライムダウンして滝上に出る。
谷は狭まり、ゴルジュ内には50mの瀞。斜めに切り立った空間は、左壁がスラブ、右壁がハングとなるが、人類が通過できそうなのは、ホールドのある右壁。
水の流れがほとんどないため、泳いだ方が楽そうだが、長大なへつりを楽しめるせっかくの機会とあって、大トラバースに挑戦することにする。
ハング部分で多少力を使う以外は特に問題なく、後半は半身水に浸かりながらへつって行く。
谷は突き当たりで屈曲し、さらに狭く長大な直線ゴルジュとなって続いている。
ここが最大の山場であろう。突き当たりは2m滝となっているため、奥に行くほど水流が速い。泳ぎでの突破は不可。ここも右トラバースを試みる。
やはりハングで腕力を消耗させられるが、ほど良くホールドがあり、岩棚に上がったりクライムダウンしたりと実に楽しい。ライン取りを見極めながらの快適なフリークライミングで進んで行く。今までにない長さのトラバースを満喫して終点の滝上テラスに上がった。
谷はクランク状に屈曲し、上では4m滝が瀑水を落としている。ここでしばし釣りタイム。容易に人の入れる場所ではないため、入れ食い状態。4m滝の釜とその下の2m滝の釜だけで、計6匹の良型アマゴを釣る。
30cmオーバーの巨大なアマゴも掛かったが、重すぎて持ち上がらず、滝に引き込まれて糸が切れてしまった。たった2箇所のポイントだけで約2時間、夢中になって釣りを楽しむ。久々の釣果に満足し、名残惜しく釣り場を後にする。
楽だと思っていた残りの遡行は、長瀞が連続し、何度も泳ぎを強いられる。(100m級の瀞が2箇所あった。)
しかし問題となったのはアブ。ゴルジュには入ってこないが、河原となると容赦なく襲ってくる。執拗に追い回され、少しでも油断するとガブッとやられる。
大群に囲まれ始め、慌ててカッパを着て防御。止まっているとあまり寄って来なくなる。やつらは動いているものに目掛けて襲ってくるようだ。
カッパを着て強気になったので、アブを蹴散らしながらガシガシ進む。
時間も押してきた頃ようやく西ヶ洞出合に到着した。
その先は林道に上がれそうな支沢が何本か入るが、過去の記録によると「ダム建設用の木橋から林道に上がった。」とあるので、それを目指して先に進む。
だが、いくら進んでもそれらしきものは一向に出てこない。時間がないため、引き返して西ヶ洞の出合から左岸2つ目の支沢に入る。
5分ほどで問題なく林道へ上がることができた。
駐車場への帰り道で長いトンネルを通ったが、途中ですれ違った車は、私の姿を見て少なからず驚いたのではないだろうか。
何せカッパとライジャケを着て、メットを被った怪しい男が一人、真っ暗なトンネルを歩いていたのだから・・。
深く大きな瀞。
泳ぎは必須。
右の穴が海ノ溝洞。
好奇心をそそられる景観だ。
左岸の側壁が印象的。
水量豊富な滝。
前方には気になる岩穴が・・。
被った右壁をトラバースして行く。
長く見事な廊下を形成している。
流れが速く、突破するには右壁をトラバースするしかない。
美しい一コマ。
蛇のように続く水路。
見事としか言いようがない。
右上のテラスで釣りを楽しんだ。
奥には4m滝の釜がある。
凄まじい水量。
釜は巨大アマゴの巣だ。
まるで岩の要塞。
岩の浸食が面白い。
へつりと泳ぎの連続。
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川幅一杯の水面。
水の透明度が高い。