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芋川 ジロト沢右俣

昨日の一ノ倉沢本谷に続き、明るい滝登攀の沢として、260mの大滝「布晒ノ滝」を有するジロト沢右俣を遡行することにした。

地形図の林道終点より300m位先で通行止めとなり、路肩に車を停めて林道を歩き出す。堰堤の工事現場から右の登山道に入り、タキ沢出合から入渓。
平凡な沢筋を進んでいくと、突如目の前を黒い物体が駆け抜けていく。熊だ・・。しかも5mほどの至近距離。
全く身構える間もなく、呆然と彼が逃げていく姿を見守る。逃げ腰の熊で良かった。もしあんな勢いで襲い掛かられたらどうしようもない。
これだけ山に入っていても、過去に熊を見かけたのは遠目に2度ほど。完全に油断していた。この時期は特に気を付けなければ。

地形図で滝マークのある場所には大した滝はなく、問題なく二俣に到着する。
左俣の大滝を見送り、右俣に入るとすぐに20m滝。左の乾いたスラブから越えると、周囲の様子は先ほどまでとは打って変わって開放的となる。
右手にはハングした壁を持つ布晒ノ滝、左手には略奪点からの大連瀑が落ち、素晴らしいロケーション。

布晒ノ滝最下段(4段目)の登攀は、通常左のルンゼにラインを取るようだが、右壁を登ったという記録もあるらしい。
一般的ではないラインの方が惹かれるので、右壁に取り付くことにする。
前衛の6m滝を右壁から渋い登り(Ⅳ)で抜け、布晒ノ滝の直下に出てから、本格的な登攀を開始した。

1P目:40m(Ⅳ)・ロープ使用
緻密な花崗岩で支点が取りづらい中、何とか良いリスを探してハーケン2本でアンカーを取る。
水流すぐ右の垂壁~ハングした壁に狙いを定めていくが、近付いてみるとその壁は、滑り易そうな黒い苔に覆われている上にシャワーが降り注ぎ、見るからに厳しそうだ。
フリーで抜けるのは結構な賭けで、アブミを持っていないため人工登攀も面倒くさい。
いったん取り付きにクライムダウンし、右の凹角スラブから登ることにする。岩壁に点在する潅木を伝って登っていくが、後半は垂直の壁となり、思いの他悪い。支点は全て潅木を利用した。

2P目:40m(Ⅳ+)・ロープ使用
スッパリ切れ落ちた垂壁から小ハングを乗り越すが、壁に心許なげに付着した小さな潅木を頼りにするしかない。スタンスに頼れず、腕力登りが主体となる。
小ハングを越えた後は、ブッシュの隙間を縫うように左にトラバース。
露岩に出てから直上し、ピッチを切る。支点は全て潅木。

3P目:35m(Ⅲ)・ロープ使用
スラブを左上し、滝身に出て、上部の岩壁に生える潅木まで登る。中間支点は前半部にある潅木×1のみ。

4P目:(Ⅲ)・ロープ未使用
ロープを片付け、大テラス(4段目落ち口付近)に上がる。
ここから上部(3段目)は傾斜のあるスラブとなり、乾いた右壁を登りたいが、タビでは厳しい。
弱点らしき水流中央のバルジに向かうが、滑りやすい上にホールドも乏しく、ロープなしでは登る気がしない。足を滑らせれば、最下段まで吹っ飛ぶのは目に見えているので、ライン選びも慎重になる。
いったんクライムダウンし、再度ルートファインディング。右の黒く濡れた壁に新たな弱点を見出す。

5P目:35m(Ⅳ+)・ロープ使用
出だしの傾斜が強いため、結局ロープを使用することにする。アンカーはマスターカム#1とハーケン×1。流水沿いに右壁を登っていく。
中間支点はハーケン×1、マスターカム#2&3。アンカーはマスターカム#0、ナッツ×1。

6P目:40m(Ⅴ-)・ロープ使用
流水沿いから右のスラブに出て直上するが、ホールドが乏しく、不安定なスタンスでのいやらしいクライミングとなる。
部分的に現われる小さな潅木にすがりながら突き当りまで登り、左のバンド伝いに悪いトラバース。
途中にアンカーを取れる場所がなく、そのまま運を天に任せて進んでいくが、やはりそう簡単にハーケンを受け付けてくれる岩質ではない。
限界までロープを延ばしても支点は得られず、ロープに引っ張られながらの苦しいリス探しを強いられる。限られたリスに祈る気持ちでハーケンを打ち込むが、返って来るのは虚しい手応えばかり。
時間だけが無情に過ぎていくが、何とかこの場でアンカーを作るしかない。
苦労の末、ようやく2ヶ所に支点を取るが、一ヶ所は1cm程度の浅打ち、もう一ヶ所は緩いリスにハーケンを2枚重ね打ちして何とか固定したもので、荷重分散をしても信用に足るものではない。
しかし他にどうしようもなく、できるだけ負荷を掛けないように懸垂下降に入る。途中の細藪と草を束ねた支点の方がよっぽど安心で、アンカーを移行しながら下降していく。
最上部のアンカーで7ピッチ目を登るのは不安なので、回収の登り返し20m付近で新たなアンカー(ハーケン×2)を設置し、7ピッチ目のスタート地点とした。
登攀の中間支点にはマスターカム#2、ナッツ×1、ハーケン×3、潅木×2を使用した。

7P目:40m(Ⅲ+)・ロープ使用
6P目の最上部アンカーから先は傾斜の緩んだスラブを登る。中間支点はハーケン×2。上部アンカーは潅木×1、ハーケン×1。

8P目:35m(Ⅲ)・ロープ使用
3段目の落ち口に上がり、水流を左に渡って太い潅木へ向かう。中間支点は前半部の潅木×1のみ。

9P目:(Ⅲ+)・ロープ未使用
予定より大幅に時間が掛かり、タイムリミットの19時に下山できるか微妙な時間帯になってきた。ここから2段目となるが、相変わらず滝身は滑らかで、即座に弱点を見出せるほど甘くはない。
ゆっくりとラインを探る余裕もなく、最も早く越えられそうな手段として、左のブッシュ帯から巻くことにする。
獣のように急いで登っていくが、やはり岩を登るようにスピーディーにはいかない。容易に直登できそうな最上段に差し掛かる手前で、水流に向かってトラバース。そのまま2段目の落ち口に出た。

10P目:(Ⅲ+)・ロープ未使用
水流左を登り、ついに最上段の落ち口に立つ。
目の前は小さな藪のトンネルで、260m滝の落ち口にしてはあまりに貧相。しかし、振り返れば視界は一転し、滝上の大空間がどこまでも続いていた。

時刻は16時に迫っている。果たしてここから3時間で下山できるのだろうか・・。登攀を終えても全く気が休まらない。
急いで落ち口右岸の草付を登り、ジロト平に出る。
藪の背丈は低く、視界は良好。左俣の位置もはっきりと確認できる。尾根沿いに下降し、左俣を横切り、奥の稜線へと上がる。

まず目指す場所は雨量計小屋。しばらくは藪漕ぎとなるが、露岩の展望台からはうっすらと踏跡が現われ始め、雨量計小屋からはしっかりとした登山道が続いていた。
落ち口からここまでの間、携帯の電波が入る場所があるかチェックしていたが、どこも入らない。下山時刻変更の連絡は諦め、スピードを上げて重松越路からの下降路を駆け下る。
道が寸断されている大崩壊地から先は沢筋を下り、18時過ぎに無事下山することができた。

布晒ノ滝は、地形図による高度差と実際の目測によると、全4段260m(4段目70m、3段目100m、2段目50m、1段目40m)が正確な値に近いと思われる。
高さだけでなく、美しさと難しさも兼ね揃えた滝で、特に支点の取り辛さが登攀の難度を上げていた。

今回はラバーソールを持参したにも関わらず、結局全てタビで登った。
ラバーソールを履けば、もっと登り易かったかもしれないが、それをしないことで沢登り本来の冒険性を保ち、充実した登攀ができたように思う。


ビッグアマガエル
≪ ビッグアマガエル ≫
通常の5倍はありそうなサイズ。
ゆったりくつろいで、うらやましい。
布晒ノ滝
≪ 布晒ノ滝 ≫
高差260mの大滝。
20m滝
≪ 20m滝 ≫
右俣に入るとすぐに現われる。
左壁を直登。
布晒ノ滝の最下段
≪ 布晒ノ滝の最下段 ≫
上から四段目に当たる。右の凹角スラブ
からブッシュ伝いに登った。
最下段を見上げる
≪ 最下段を見上げる ≫
水流右の垂壁を狙ったが、悪条件に
跳ね返された。
最下段を側面から見る
≪ 最下段を側面から見る ≫
2P目の垂直のブッシュ帯にて。
最下段を見下ろす
≪ 最下段を見下ろす ≫
2P目露岩帯にて。ハングの上は
急なスラブとなって続いている。
左の連瀑は略奪点からの滝。
3段目
≪ 3段目 ≫
長大なスラブ滝。
最下段落ち口を見下ろす
≪ 最下段落ち口を見下ろす ≫
足を滑らせれば、走馬灯が見れる。
4P目上部
≪ 4P目上部 ≫
ホールドは少なく、滑りやすい。
傾斜の割にあなどれない。
6P目
≪ 6P目 ≫
ある意味、今回一番の核心部だった。
とにかく支点が乏しい。
3段目落ち口の甌穴
≪ 3段目落ち口の甌穴 ≫
この細い水流が、下であんな
広がりを見せるとは・・。
2段目
≪ 2段目 ≫
時間に追われ、右岸の
ブッシュ帯に逃げ込む。
最上段
≪ 最上段 ≫
ゴールは間近。
しかし、最後まで気は抜けない。
最上段の落ち口にて
≪ 最上段の落ち口にて ≫
今まで登ってきた距離がどれほどの
ものか改めて実感できる。

【 遡行データ 】

  • 対象 : 巻機山 三国川 芋川 「ジロト沢右俣」
  • 行程 : 「ジロト沢右俣」遡行~「雨量計小屋」から「重松越路」の登山道で下山
  • 日程 : 2011/9/29 日帰り
  • 形態 : 単独
  • ギア : 三つ道具、スリング、8mm40mロープ、ソロイスト、MEマスターカム#00~3まで各1(計5本)、BDストッパー#1~6まで各1(計6本)、ラバーソール(未使用)
  • コースタイム :
  • 8/16  林道通行止めP(5:45)-タキ沢出合(6:05)-布晒ノ滝下(7:35~8:00)-四段目上(11:30~11:50)-最上段落ち口(15:35~15:50)-左俣(16:15)-展望台(16:30)-雨量計小屋(16:55~17:00)-重松越路(17:10)-林道通行止めP(18:10)

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