「鳳鳴四十八滝」、それは仙台広瀬川の中流域に位置し、約1kmのゴルジュに多くの滝を内包する名勝地である。車通りの激しい国道の真横、さらには付近に民家も存在し、あまりにも沢登りの対象としては不適な人工物に囲まれた場所に存在する。
しかし、いざゴルジュを覗き込んでみるとそのスケールの大きさはどうだろうか。本流の豊富な水量を幅数メートルまで一気に収束し、白泡立った激流が所狭しと奔走する。おおよそ人が踏み込めるとは思えない脅威の空間。先の見えないゴルジュの奥は一体どうなっているのか・・。
未知なる世界が心をくすぐる。おそらく終始水との闘いとなるだろう。
遡行の成否は水量に大きく左右され、平水でさえ限界ラインかもしれない。水量が減った時期を見計らって入渓するのが好ましい。
本番前に何度か偵察に行くが、雨後しばらくは水量が多く、全くゴルジュ内を通過できる状態には見えない。しばらく晴天が続き、水量の落ち着いた隙を狙って入渓を試みる。
48号線から仙台ハイランドへ向かう橋(ゴルジュの入口が見える)を渡り、左の支沢を下って本流に降り立つ。ゴルジュ入口の幅は1m程しかなく、そこから吐き出される水は深く大きな釜へと吸い込まれていく。釜を泳いで左壁に取り付き、いよいよ待望のゴルジュへと潜入開始。
ゴルジュ内の水勢は予想以上で、荒れ狂う流れが怖ろしい。水路状のゴルジュを一旦右に飛び移り0.5m滝の上で再び左へ飛び移るが、失敗すれば激流に飲み込まれ振り出しに戻ることになるだろう。
荒瀬を越えると、すぐに2m滝が現れる。小さい滝だが、この水量では凄い滝にさえ見えてしまう。右壁から越えると、高さ3m、長さ8mのトイ状滝となる。白く躍動する流れが龍のように美しい。
続いて岩壁に仕切られた水路が現れ、素晴らしい造形美の連続に心躍る。
さらにゴルジュの深みへと入っていく。突如正面に巨大な岩壁が現れ、手前には美しい一枚岩を携えた1m滝。まるで岩壁から流れ出ているかのようで、一瞬目を疑う。
一体水の流れはどこから来るのか・・。四方八方を岩に塞がれ、この先谷がどこへ続いているかも分からない。暗く不気味に浸食された岩壁が現実感を一層遠ざけ、まるで異次元の世界へと引き込まれたかのようだ。
右岸をトラバースし、一旦1m滝上のルンゼに逃げ込む。袋小路に見えたゴルジュは、実は右に屈曲し、幅2mの水路となって続いていた。相変わらず流れが速く、ここを確実に通過できる方法があるのだろうか・・。
考えられる方法はただ一つ。右岸の側壁を登って、上部から懸垂トラバースで水路の中間地点(0.3mの落ち込みより上)に降り立ち、そのまま一気に対岸に泳ぎ渡る。
もし失敗すれば激流にさらわれ、下の1m滝に引き込まれることになるだろう。ロープを付けた状態では流れから脱出できない可能性もある。しかしこれ以上の良案は思い付かず、やるしかない。
まずは側壁を登り、懸垂支点を作成。良い場所にハーケンが打てず、やむなくボルトを1本打つ。スリップに注意しながら慎重に下降。渡渉点を見定める。後は思い切って対岸に渡るのみ・・。
ロープを緩め、意を決して激流にダイブ。一気に水心を越え、必死に対岸の岩にしがみ付く。一瞬流れに引き込まれかけたが、何とか無事に難局を乗り切ることができた。
谷は左曲し、豪瀑「鳳鳴滝15m」が圧倒的な水量で差し迫る。まさに滝の見本とも言うべき威厳ある姿に、直登の挑戦心は奪われ、右岸の巻きラインに吸い寄せられる。
一旦谷幅が広がり、穏やかな渓相となる。5m、3mの2段滝を越えると再びゴルジュが始まるが、規模が小さく、先程までのような威圧感はない。右岸台地から一気にゴルジュを巻くことも可能だが、それではつまらない。せっかくの好天日和。あくまで水線突破にこだわりたい。
とは言っても入口の1m滝は取り付けず、やむなく右岸巻き。側壁をクライムダウンして沢床に戻る。次の0.5mトイ状滝は泳いで突破。1m滝を越え、深い瀞を持つ6m滝となる。
岩の砦のような美しい滝で、直登できる弱点はない。左岸から小さく巻き上がると、滝上は平坦な流れとなり、ゴルジュは突然の終わりを告げた。奇跡の造形「貫通甌穴」を見て遡行を締めくくる。
広瀬川鳳鳴四十八滝は、短い中で実に変化に富んだ美しく険しい谷であった。水質は良くないが、ゴルジュの規模、水量、造形美、どれをとっても一級品と言える。
もしこの谷が自然のままの姿で残っていたとしたら、どれだけ素晴らしかったことか・・。
沢登りの醍醐味とも言える未知なる冒険を経て、往年の思い「鳳鳴四十八滝ゴルジュの解明」をここに完遂した。